風間監督の退任が発表された。少し前から噂はあって噂で終わってくれればと思っていたが残念ながら現実となってしまった。成績が伴わないことに対する責任はプロスポーツである以上あるのかもしれないが、この時期の退任はかなりのリスクも伴うので、シーズンが終わった後でも良かったように思う。
中日新聞でのコラムやネットのコラムを見ると補強に見合うだけの結果を出せていないのが主因という論調がほとんどだが、それには少し違和感がある。個人的には3点が現在の順位の原因と考えている。
- 選手獲得で後手を相当踏んでいたこと
- J2降格後の再編がまだ完了できていないこと
- 中核になる選手をチームに留め切れなかったこと
確かにジョーの加入は大きな投資だったと思う。ランゲラック、シミッチ、米本辺りも狙った人材だっただろう。しかしそれ以外の選手は、シーズン途中でしか獲得できなかった補強面の失敗の側面が大きいのではないだろうか。途中加入した選手は、丸山、中谷、前田としっかりとレギュラーに定着しているし、欲しい人材だったのは間違いないはずだが、人材の入れ替えが激しいのとシーズン途中からの加入の難しさが風間サッカーの独特さと相俟って効果を出せていないのが今の順位の理由に思う。
J2降格後から指揮している点も情状酌量の余地がある。J2降格となれば、自然と有力選手が抜ける。加入してくれる選手の幅はJ1より狭まった中でスタートしている点は考えなければならない。その戦力が整わない初年度からギリギリ昇格を決めても、J1レベルに合わせる為に選手の再編成が必須で、選手の入替えが大きくなるのも致し方ない。降格争いもある程度必然だった面がある。今年も米本、シミッチの補強は的確だったが、おそらく構想上まだ足りないパーツがあったのではないだろうか。
冷静に見てクラッキ、ファンタジスタとなりうる選手がいない。足りないパーツとして端的な例を挙げれば中村憲剛。サッカーを心底楽しみそれを周囲にポジティブに波及させる選手がいない。ただクラッキ、ファンタジスタは育成不能で人材。そこは出現するまで運の要素の方が大きいかもしれない。ただそのパーツが欠けている為、サッカーの面白さの創造性を風間監督が一手に引き受けているような状態だった。ピッチに立てない以上限界はあるだろう。
キャプテンシーとチームへのロイヤリティという点でも中村憲剛的な存在に欠けている。田口にはその可能性があったが、揉めて手放してしまった。J2時代での田口からにじみ出ていた責任感があれば、もう少し違ったものになっていたのではないだろうか。玉田も名古屋での長いキャリアを考えれば手放すには惜しかった。世代交代は必要だし、出場機会は限定されたかもしれない。給与が高止まりしそうなところがネックだが、その点は話し合いの余地は無かったのだろうか。
スポンサーへの建前として補強に見合う結果が出ていないと監督を責めるよりも実は補強が言うほど監督をしっかりとフォロー出来ていなかった可能性は考えるべきだろう。それにJ2降格後からチームを再建するのに昇格後2年はちょっと短い。降格のリスクが0ではないが、後1年今のメンバーを固定できれば来年の雰囲気は違うのではないだろうかという思いが頭から離れない。降格したら更迭で良かったのではないだろうか。
トヨタからのプレッシャーも事あるごとに言い訳として上がるが、世界有数の稼ぎ頭のトヨタがサッカーチーム1つのコストに一々やんや言うはずがない。そこを文句言うようであったら初めからチームをサポートしないはずだ。チームを速成で再生し強くすることが如何に難しく、お金で簡単に解決できるとも、世界有数の組織を持っているトヨタは思っていないだろう。きちんとJ2降格からの経緯で改革途上であることを説明すればトヨタを納得させることはできたのではないだろうか。
最後に、タイトルを取れなかったとは言え強豪に育てた川崎から、名古屋の街自体に可能性があると言い、J2に降格していたにも拘らず、名古屋に来てくれた風間監督には感謝したい。昨今名古屋にそこまで評価してくれる人は中々いない。体格サイズに依存しがちだった名古屋のサッカーの雰囲気を勝敗は別にしてこれほど面白く変えてくれたことにも感謝したい。勝てなければ面白くないという話も分からないではない。でもただ勝つだけでも面白くない。それを教えてくれたのは風間監督だった。